[ 愁 ウレウ ]
例えば昔。 一人っきりで留守番せなあかんかった夜は。 風がやたら強うて。 窓はガタガタ鳴るし、ビュウビュウいうんがモンスターの唸り声みたいやし。 心細うて、しゃーなかったけど。 マスターが。 どへんしても不安な時は、好きな人やモノのコト考えなはれ、て。 そうすれば、ちぃっとは気持ちが強うなる。 そうして気ぃ付いたら、朝んなってますからな、って。 そう云わはったから。 せやからうちは。 大好きなマスターの微笑みを、心ん中に思い描いて。 ホンマに怖い目ぇに合う様な時は。 きっと、最後の最後にマスターが来てくれはるて。 よう頑張らはったなって、笑ってアタマ撫でてくれはるて。 信じてましたのや。 やけど。 マスターが亡うなってからは。 ソレは、忘れた感情。 きっと、余裕がのうなってたんやね。 一人になってしもうたから。 縋るモンなんて、いっこもなくて。 せやのに。 怖い、て考えてしもうたら。 そしたら。 せやから、考えられへんかったのや。 相方が出来るまでは。 ガトがおったら。 うちはうちでいられる。 ありのまま感じられる。 アンタどついたり、冗談めかして弱音吐いてみたり。 聞いてくれるアンタがおるから。 やから、気弱な自分はすぐに笑い飛ばせるから。 せやけど、なぁ。 アンタが。 おらんようになるて。 ソレは。 ソレばっかりは。 アンタが隣に。 同じベッドの中におってさえ、きっともう拭えん。 怖い。 もうアンタを治されへんて。 したら、 あぁ、もう! もし、出来るんやったら。 アンタを箱に入れて閉じ込めて、絶対なくさない様にしまい込んどくのに。 でも、ソレは。 あかん。 出来んコトやわ。 うちは立ち止まらへん。 絶対にや。 せやから。 なぁ。 うちはコレから、アンタに云えるのやろか。 行きなはれ、て。 行ったきり、亡うなって戻られへんかもしれんのに? あぁ。 でも。 せやね。 例えうちが行け云わんでも。 アンタ自身が。 うちの前に立って走ってくんやろな。 きっと。 アンタも出来やしないのやろ。 うちが行くのにおとなしうしとるなんて。 「敵」とうちの間に立つ事を止めるなんて。 せやから。 うちがおっ死ぬのは、アンタのアト。 本意かどうかはともかくな。 コレも、絶対。 全部、そないな事何もかんも判っとるのに。 アンタもうちも、とんだ阿呆で。 そいで、アンタのがちぃっとだけズルイのん。 あぁも、かなわんわぁ。 |