[二重 フタエ]


「ヘイゼル」
何てコトのない街の、何てコトのない路上。
「どないしたん?」
後ろを歩いとったガトに呼び止められた。
「あれを」
と、示す方へと視線を巡らせば。
「な……っ!」
ソコにはエラい見慣れた、せやけど有り得へん姿があった。
ソレは黒い長衣、黒い帽子、覗く髪は銀色の。

うちとよく似た姿やった。

「アンタッ!」
走り寄って腕を掴もうとして。
「何や不躾やな」
逆に手首を掴まれ捻られて。
「ヘイゼル!」
助けに入ったんは当然、
「「ガト!」」
うちと相手と、おんなし声でハモッた。


「念の為、確認させてもろてもええやろか?」
ココは、あのアトすぐに適当に入った茶寮。
あんまり人目を惹くのも考えモンやろ?て。
目の前の男が云うもんやから。
何や、主導権握られたみたいで、気ぃ悪いけど。
ただでさえ目立つうちらやから、ソコは素直に従って。
「アンタさんは、どちらさんやろか?」
そうしてやっと、根本的な問いをした。
うちとその背後に控えるガトと、向かいに座す男と。
間には、たった今運ばれてきた紅茶のセット。
ご丁寧にアフタヌーンティーよろしく、
サンドイッチやプチフールの三段重ねのアレまで注文したのは、コノ男。
あぁ。
端から見たら、何とも間の抜けた問いかけやろな。
どっからどう見ても、きっと双子の兄弟やし。
ちぃっとうんざりして目の前の男を見やれば。
「お互い聞くまでもない様な気ぃもするけどな」
妙に懐っこい顔で笑いかけてきよって。
「うち、ヘイゼル・グロース言いますのや」
うちと同じ姿のソレは、やっぱりうちと同じ名を口にしよった。

「うちにも何が何やら、さっぱり判らへんのや」
と、男は小首を傾げ苦笑して見せた。
「よくある街のよくある路地を抜けて、そうしたら」
云いながら、テーブルの上で組んどった手ぇを解いて。
「うちがそん時いた所とは、違う場所になっとったのや」
両手を開いてお手上げのポーズをして。
「うちトコのガトもおらんようになってもうたし」
ひらひらと手ぇを振る男はでも、何とのぅ楽しそうで。
「どないしよ思っとったら、アンタが手ぇ出してくるさかい」
くつり、と。
うちの目ぇをしっかり見て、カンに障る笑みをして。
「堪忍な?」
ソレは言葉とは裏腹に、嘲笑めいとって。
「何や含みのあるカオしたはりますな?」
見過ごされへんでそう云えば。
「大した意味あらしまへんえ?」
にこりとまた、別の笑い方をして見せて。
「ただうちら、見た目程似たらへんのかも、てな」
ソレは全く真意が見えへんかったのやけど。
例えばモンスターがうちに化けとるとか。
そういう気配は全くやったから。

取りあえずは、一緒に行動するしかあらしまへんのやろ?
内心でえい忌々しぃと思いつつ。
表面的にも諦めを多分に含んだ渋面で、目の前の男の笑顔を見返してやった。









2006/09/24
Wヘイゼルです。
双子の美人v 呼べるのは当然モスラじゃなくてガト。
漫画版は一人でも(表面上は)大丈夫そうだけど、
リロガンの方は(色々)ヤバそうなのでこの組み合わせで。
理由理屈は不要なネタなので、お気軽にお楽しみいただければ幸い。
取りあえずあと2回、漫画版ヘイゼル編と、ガト編との予定です。あくまで予定ですが。





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