[ 聖夜 ]


その夜、オイラは夢を見た。
すっごいすっごいヤなヤツの夢。


「おばんです」
んー……
「起きてくんなはれ」
ウルッサイなぁ。
「起きひんのやったらなぁ」
アレ?
「さーん、にーぃ、いーち、」
このヘンなしゃべり方って。
「ゼロ!」
「ふぇぇっ?!」
いきなりヒトのほっぺたつねるって誰だ?!
「っにすんだよ!!」
誰だか判んないけど、オイラの邪魔すんなよなっ!
起きあがりついでにソイツを蹴りつけてやる。
「ははっ、相変わらず元気良すぎやわぁ」
「オマエッ……」
「ごきげんよう」
空いた方の手で帽子を上げながら云ったのは。
「ヘイゼルッ!!」
「へぇ」
ヘンなカッコと言葉、うさんくさい笑顔、間違いない!
「オマエ確かに死んでたはずなのに、ユーレイか?!」
だってヘイゼルが死んだのは確かだし。
何だか良く判んないけど、間合いを取って構える。
「あぁ別に悪さしに来たんと違いますえ?」
へらへらした笑顔でひらひら手を振るのをにらみつければ。
「あんさんに詫びと礼を言いに来ましたのや」
青空みたいなまっすぐな目で見返された。

「そういえばアイツはいないのか?」
オイラはソファに、ヘイゼルにはクッションを放って部屋のスミに座らせた。
もうそう簡単に信用してなんかやらないんだからな!
「ガトは今日は別行動どす」
横座りの足の上にちょんと帽子を乗せたヤツの後ろは、壁があるだけで。
「何かヘンなの」
ヘイゼルたちのコトなんて知らないコトのが多いけど。
後ろにあのでっかいのがいないと、何かヘンだ。
「うちかて一人で外出くらい出来ますわ」
少し眉を寄せて笑うのは、やっぱりあのヘイゼルだけど。
「てかオマエ、生きてたのか?」
そっちのが重要な問題だよな、ホントは。
今度はだまされるもんか、見極めてやる!
イロイロ非常識なヤツだったし、ソレも不思議じゃないかもだしっ。
「ややわ、あんさんらが埋めてくれはったやない」
「ってそんなコト自分で笑って言うかー?!」
首を傾げてオイラを見る表情は柔らかくって。
あのヘイゼルだけど、ちょっと違う、かも?
「せやかてうち、ちゃぁんと知っとりますえ?」
なんて思ってたら、急に目が細くなってちょっと意地悪そうな顔になるし。
やっぱ油断ならないヤツ!
「ナンだよ?」
何を云い出すのか見当も付かなくて、ちょっと腰が引ける。
そんなオイラを見て、ヘイゼルはふっとため息みたいに笑った。
ソレがすっごく優しく見えて、驚いたら。
「あんさん、うちのために泣いてくれはったやろ」
「えっ……?!」
もっと驚くコトを云われた。

「そうだけど」
そりゃ、確かにそうだったけど。
オイラだって泣いたのは意外だったんだ。
一度はブッ殺す!って思ってたヤツに涙流すなんて。
ソレを、まさか本人に云われるなんてっ!
「だっ、だったらナンだよ!!」
思わず立ち上がって詰め寄って、上からヘイゼルをにらみつける。
だって、だって恥ずかしいじゃないか!
「おおきにな」
仁王立ちなオイラの前にヘイゼルがひざまづいて。
手袋に包まれた手が、オイラの右手を取って。
「なっ?」
手の甲に、ヘイゼルの唇がそうっと触れた。
「堪忍どすえ、なんて言葉じゃ済まされへん様な酷いコトして」
一瞬で唇は離れたけど、手はヘイゼルに取られたままで。
「憎まれたまんまなんが当然やのに、あんさんは違うた」
うつむき加減でヘイゼルはそう云うけど。
「うちには出来へんかったコトどすわ」
良く判んないけど、何かムズムズするっ。
「オイラ、別にっ…」
云いかけたオイラをさえぎる様に、ヘイゼルの頭が振られて。
「あんさんが泣かはったから、うちの罪がちぃっとだけ洗われましたのや」
泣いてるんじゃないかと思ったのに。
顔を上げたヘイゼルの笑みは、すっごくキレイで。
「せやからおおきに、ありがとさんな」
オイラの手に、ヘイゼルのもう片方の手が重ねられて包み込まれた。
「う、うん」
うなずくオイラに、ヘイゼルは笑みを深くした。

「あぁ伝えられて良かったわぁ」
ヘイゼルは、オイラの方へ手を返して立ち上がった。
こんな風にされたの、オイラ初めてだ。
「あの世で奉仕活動しとっても、ずぅっと気になっとったんどす」
返された手、オイラのじゃないみたいで落ち着かない。
「このまんまじゃどうにもならんて上に頼み込んでって、聞いてはる?」
「んぁっ? ……ゴメン」
しょうがないなーって顔で笑われるのが、くすぐったい。
何かオイラ、ヘン?
「えぇよ、こんな時間にしか来られへんうちが悪いんやし」
「そーだね、どうせなら昼間来れば良かったんだ」
お兄ちゃんがいたら大変だったかもしんないけど。
「すんまへんな、今夜限定のイベントだったんどす」
「それじゃしょーがないか」
ん? 今夜だけ?
「そしたらオマエまた行っちゃうのか?」
「せや。うちのおるべきは向こうやし、ガトも待っとるし」
そんなっ、それなら!
「ならあんなコトすんなっ!」
ヘイゼルは青い目を大きくして、ぽかんと口開けて驚いてる。
でも、一番驚いてるのは勢いで云ったオイラの方だった。

「しゃーないなぁ」
呆れたみたいな、笑い混じりの声が振ってくるけど。
「こない可愛らしぃ妹おって大変やわ、あンお兄さん」
すっごい恥ずかしくって見られない。
「えっらい不意打ちな殺し文句どしたわ、今の」
言葉と一緒に頭の上にあの手が振ってきて。
「そないなモンはもっと大事に取っときぃ」
髪が乱れないくらい、軽くゆっくり撫でられる。
「そやないとうち、お兄さんに殺されてまうわぁ」
そーだよ、お兄ちゃんとか八百鼡以外、頭触られるの嫌いなのに。
「あぁ、そろそろお暇せなならんようや」
ホント、ヘンだよオイラ。
「あんさんは愛し方もちゃぁんと知ってはるお子やから」
どうしてヘイゼルがイヤじゃないんだろ。
「神のご加護も何もいらん、きっと好いたお人らと幸せにならはる」
そう云って頭に唇が落とされて。
「ヘイゼルッ!」
何か、何か云いたいのに!
見上げたキレイな笑顔でいっぱいになって、段々気が遠くなって。
「別了」
最後に、やたらキレイな発音で。
聞こえたのは、永遠の別れの言葉。


ヤなヤツの夢を見た日は、ヤな朝に決まってる。
…………でも。
何だかイヤじゃない気もちょっとする、良く判んない朝だった。






2004/12/25
おそらく書いてる自分だけが楽しいであろう話。
リロガン最終回からずっと書いてやろうと野望を抱き。
クリスマス直前、今しかあるまいと発心、一旦挫折。
てか李厘ちゃんはドコまで乙女にして許されるのか。
そしていきなり最後で中国語なのはどうなのか(遠い目)。
たった二文字で(もう二度と会わない)さようならなんて、美しい言葉だなと。
ちなみに某女傑族の水を被ると猫になる娘のセリフから引用、だったり……

この設定の話は多分もうやらないと思うので何卒ご容赦を。
くれぐれもウチはガトヘイサイトですから!

お付き合いくださった方、誠にありがとうございました(平身低頭)。



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