[後朝 キヌギヌ]


「イタイ」
コレが目覚めの第一声て、自分でもどやろ思うたけど。
目ぇ開けたら至近距離に顔があって、目ぇが合って。
驚いて気恥ずかしゅうなって、考えナシに起き上がったら。
昨夜の名残の痛みに、つい。
せや。
うち、昨日初めてガトと。
「すまない」
言葉は訥々としとるけど、飛び起きて乏しい表情でおろおろして。
あぁ、かわえぇなぁなんて。
最近知った気持ちを噛みしめる。
せやから。
「アンタ、謝らなならんようなコトしたん?」
わざと冷とう云うてみる。
気遣うてくれてはるんは判ってますけどな。
「うちとしたんは、いい加減な気持ちやったん?」
ちぃっと。
ちぃっとだけな、イジメてみとうなりましたのや。


「ヒドいわぁ」
て、背ぇ向けた瞬間。
「すまない」
後ろから伸べられた手ぇに抱きしめられた。
「何や、また謝るん?」
手ぇに手ぇを重ねて、後ろへ寄っかかって。
あぁ、温かいわぁ。
怒ったフリするんがアホらしゅうなる。
腕の中で向き直れば、アンタは微笑んで。
心音がひとつ跳ね上がる。
「アンタのせいや」
その首に腕を巻き付けて抱いて。
「何がだ」
耳元に、低ぅて静かで、気持ちえぇ声。
温かい手ぇにしっかり抱き直されて。
コレだけでうちが満足するて、判ってへんくせに。
あぁもぉ。
「アンタ、ズルいわ」
ぴたりと胸に胸を押し付けて、鼓動を伝えた。


「そろそろ起きるか」
うちを抱く手はそのまんまで囁かれた。
ぴったりひっついて、さて何分経ったんやろ。
お互い何も云わんでも、こうしとるんは心地えぇし。
改めて顔見るのが、何や今更照れくさいし。
「まだアカン」
なんて、な。
ホンマはただ単純に、うちが放したないだけで。
せやのに。
「……アンタ今笑うたやろ」
「いや…」
って云うてる声が既に笑み含んどるし。
細っこい目ぇ、更に細ぅしよって。
「ええわ、したらもう絶対放さへん!」
ぎゅっと首にしがみつく様に、腕に力を込めれば。
「そうか」
云いながら、ガトの右手が腰の辺りを滑り降りた。


「ナニすんのやッ?!」
その手の動きがこそばいと思う間もなく。
うちはいきなり横抱きにされた。
「離れたくないんだろう」
言質を取られ、一瞬言葉に詰まって。
あっ、アンタまた笑たな!
「女子供やあるまいし、こないなっ」
今は座っとるからえぇけど、コレお姫様抱っこやし。
結婚式の花嫁サンくらいしかせぇへんわ。
男としてどないやの、なぁ?
「嫌か」
そんなんっ!
「本当に嫌か」
……重ねて聞かんでもえぇやろ。
そら、そらなぁ。
「アンタやっぱズルいで、ガト」
そないまっすぐな目ぇで見つめられたら。
ナニされてもどないなコトでも許してまいそうで。
「そうか」
微笑む眼差しは、やっぱり子供扱いされとる気ぃするのに。
今はちぃともイヤやないんが不思議で。
せやけど何や、負けたみたいな。
なぁ?


「うちお腹空きましたし、体もキレイにしとぅおす」
抱かれとるのも、すっかりガトのペースなんも、イヤやのうても。
やっぱりちぃっと悔しかったから。
首に巻いた手ぇを外して、腕組みして。
ついと明後日の方を向いてねだれば。
「ああ、判った」
「髪だけやのうて、全部洗うてくれなあきまへんえ?」
目ぇだけそっちへ向けて念押ししても、あっさり頷いて。
「あとっ、体がダルぅてかなわんからマッサージも!」
ちぃっとくらい、たじろいだりするんやないか思うたのに。
アンタは笑って頷くばっかで。
何やおもろないわぁ。
思わず唇を尖らかしたまんま向き直る。
大体、なしてうちがこないなコト云うんか。
うちの気持ち、判ってはる?
なぁガト?
「せやけど、何よりな」
何かしてもろたりなんて、ホンマはどうでもえぇんどすわ。
ただ、ただな。
「今日はこのまんま、ひっついてたいんよ」
肩口に頭をもたれて、見上げて云えば。
アンタはやっと目ぇ見開いて驚くから。
うちはようやく溜飲が下がって、満面の笑みを返した。








2004/12/17
いかがでしょうか、アイミ様。
素直でない甘え方ですが、糖度は足りましたでしょうか?
いきなり事後から始めてしまったコト自体が反則かもしれませんが(苦笑)。
しかしコレは、ヘイゼルよりガトの方が幸せそうな気がします。
少しでもお気に召していただけたらと思います。
今回はリクエストありがとうございました。



→小話top