[ 痕 キズアト ]
あれは、どんな傷を負っても血ぃを流さへん。 痛みなんてカケラも感じん。 けど、治りもせぇへん。 ただうちだけが癒す事が出来る。 うちは、血ぃも出るし痛いし。 でも、直に治る。 「どっちがええのやろな」 「……いいから、傷を放って考え事は止めろ」 何の話だか知らないが、 そない云いながら、ガトがうちの手を取り上げる。 うちはベッドに座ったまんま、人事の様にそれを見上げた。 自分の爪で自分の手ぇ切ってまうなんてなぁ。 当てられたコットンが傷口を拭って。 嫌味な白が、生々しゅう赤うなる。 原因のくだらなさに反して、傷は割に深うて。 ふっと呆れた風に息を吐かれた。 手早う膏薬を塗られ、真新しいガーゼの上から包帯を巻かれて。 太い無骨な指先は、案外に器用で。 嫌いやない。 せやけどそれは、白布の端を切るとすぐに離れて。 なんやなぁ。 「ちょっと動かしづらいわ」 解放された手ぇを、開閉してみせる。 手招く様なそれに、アンタはまた溜め息を吐いて。 「なら怪我なんてしてくれるな」 動きを遮るよう、再び手が捕らわれる。 銃を握る為の手ぇが、優しう。 なぁ、アンタこそ気ぃ付けなあきまへんえ。 うちと違うて、アンタは治らんのやさかい。 うちが、おらんようなったらな。 そないな心配する義理も何もないのやけど。 アンタとうちと。 どっちが先に逝くんが幸せやろな。 |