[ 痕 キズアト ]


あれは、どんな傷を負っても血ぃを流さへん。
痛みなんてカケラも感じん。
けど、治りもせぇへん。
ただうちだけが癒す事が出来る。

うちは、血ぃも出るし痛いし。
でも、直に治る。


「どっちがええのやろな」

「……いいから、傷を放って考え事は止めろ」
何の話だか知らないが、
そない云いながら、ガトがうちの手を取り上げる。
うちはベッドに座ったまんま、人事の様にそれを見上げた。
自分の爪で自分の手ぇ切ってまうなんてなぁ。
当てられたコットンが傷口を拭って。
嫌味な白が、生々しゅう赤うなる。
原因のくだらなさに反して、傷は割に深うて。
ふっと呆れた風に息を吐かれた。
手早う膏薬を塗られ、真新しいガーゼの上から包帯を巻かれて。
太い無骨な指先は、案外に器用で。
嫌いやない。
せやけどそれは、白布の端を切るとすぐに離れて。
なんやなぁ。
「ちょっと動かしづらいわ」
解放された手ぇを、開閉してみせる。
手招く様なそれに、アンタはまた溜め息を吐いて。
「なら怪我なんてしてくれるな」
動きを遮るよう、再び手が捕らわれる。
銃を握る為の手ぇが、優しう。


なぁ、アンタこそ気ぃ付けなあきまへんえ。
うちと違うて、アンタは治らんのやさかい。
うちが、おらんようなったらな。
そないな心配する義理も何もないのやけど。


アンタとうちと。
どっちが先に逝くんが幸せやろな。






2004/08/
今となっては雰囲気甘過ぎ。
てかこういう甘え方はヘイゼルさん的には有り?



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