[コトリ]


「アンタ、したコトありますのん?」
本当は、もうずっと長いコト気になってましたのや。
アンタ自分自身のコトはちぃとも話さへんし。
ちんまい頃はホンマ好かんかった、アンタの。
それが今更、よりによってこないなコト。
よう聞かれへん。
せやから酔ってまえば、て。
アトの事も何も気にせんようなれるか思うて。
ほろ酔いじゃ済まん量過ごして、こないなって。
「何てカオしてますのや」
驚いとるクセに平静保とうとしよって、バレバレやわ。
どんだけ一緒におる思うん?
笑うしか、ナイわ。
用ナシんなったグラスは脇へ退けて、間合いを詰めて。
見上げた目ぇの色が、無言の拒絶みたいで。
「なぁ?」
うちが近付いても棒立ちで。
つま先立って頬に手ぇを伸べてもされるがままで。
あぁ、あんまり冷やっこくて、酔いが醒めてまいそうや。
どないしたら、アンタの冷たい体は熱ぅなるん?
「出来ますのん、アンタ?」
物云わぬ憎らしい唇を、何も云わせんとふさぐ。
答えられへんのは、うちのせいにしといたるから。

「ホンマおとなしなぁ、アンタ」
口吻けた勢いのまんま、壁際に押し付けても。
シャツを乱暴にはだけても、表情も変えへんでアンタは。
うちはもう笑うしかのうて、せやけど。
「キレイなもんや」
ホンマやったらココにも、ソコにもあるんに。
何の痕もないその体が。
「あないに傷負うとるのに」
治しとるのはうちやのに、なぁ?
「何や憎らしなぁ」
傷も思いも、アンタには何もかんもが無いコトなんか?
せやから。
固い肉を噛みしめる、僅かな時でも痕を残しとうて。
「血ぃも出ぇへんし」
きつく鎖骨を噛んでも、イヤな感触がするばっかで。
「何の味もせぇへん」
舐めてみても、アノ鉄錆の香りすらのうて。
判りきっとるコトやのに。
なしてこないなコトしてもうたんかなぁ。
痛みを感じひんアンタは、眉一筋も動かさへん。
アンタの目ぇ覗いたかて、もううちには何も判らへん。
むしろ。
その色が、黄色い瞳が。
アンタとうちの立場を突きつけよる。
あぁ、ハナから判っとりますわ、そないなコト。
アンタみたいに、無かった事にするつもりで身ぃを引きかけて。
せやけど、もう少しだけ。
ほんの微かでも気ぃの迷いでも、鼓動が聞こえたら、て。
未練がましぃ思うても、その胸に耳を当てたんは。
ホンマは離れとうなかっただけかもしらんけど。
「何の音もせぇへん」
がっかりしたんか安心したか、もう自分でも判らへん。
ただ当たり前のコトに、詰めた息を吐き出して。
「なして……」
判っとったハズやのに、アホな期待しよって。
火照るうちと対照的な、その冷たさは。
恥ずかしさと悔しさを煽って責めて。
イヤや。
それでも離れられんと、身を寄せたまんま。
今やったら、抱き締められても許せますのに。
せやけど、アンタはうちのしもべやから。
そういうコトなんやろ、なぁ?

「ガト」
うちの忠実な有能な守護者。
うちのカラダだけを守ってくれはる。
せやから、こない子供みたいに抱きついても。
振り払ったりせぇへんし、抱きとめもせん。
「ガト」
うちが何をどう思っとるか、ホンマは知っとるのやろ?
知っとってうちを放っとくんや、アンタは。
そないな事判っとる、やけど判りとうない。
もう顔も見たないけど、放しとうもなくて。
「アンタ、ズルいわ」
うちの世界にはアンタしかおらんのに。


忠実なしもべは決して命令に逆らわへん。
せやからうちは、もう何も云われへん。
あぁ、アンタはうちのモンや。
決してうちの大切な人にはなれへんのやな。









2004/12/28
[虜]ヘイゼルサイドはいかがでしたでしょうか、カラス様。
併せてますます救いようのないすれ違いっぷり。
強気で弱気なヘイゼルでございます。
リクエスト内容から更に遠ざかった気がしないでもないですが、
抱き合わせ商法でコチラも謹んで進呈させていただきます。
お受け取り下さいませ☆