[ 聖人礼賛 ]
「おー、見事なカボチャ大王」 子供が4人、僕たちの脇を駈け抜けていく。 食料その他、買い出しの荷物を手にした悟浄が避けてやりつつ呟けば。 「うまそー!」 あ、やっぱり。 きっと云うだろうなぁとは思いましたけど。 小さな手がしっかりと抱えているのは、オレンジの大南瓜。 悟空は案の定、きらきらと目を輝かせていて。 「アレは食べられませんよ悟空」 柔らかいその色からは、ほっこりした優しい甘さが想像されるけれど。 「食用じゃない南瓜なんです」 「ちぇー」 残念ですけど、と添えつつ教えれば、本当に悔しげに云うから。 ちょっと気の毒な気もしますねぇ。 けど。 「てかハナっから中味くり抜いてあんだろーが」 呆れた様に悟浄が云うのも確かにもっともで。 「悟空はハロウィンは知りませんでしたっけ?」 ソレに同意するのもあんまりかと、話を変えてみた。 「ナニソレ?」 傾げた首と答えが返る。 「ハロウィンっていうのは宗教行事で、」 そう口にすると同時に、するりと糸をたぐるよう思いだされるのは。 「はっかい?」 物思いに耽るのを、不思議そうな悟空の声に引き戻される。 「あ……」 気付けば俯き足を止め、僕は道に立ち尽くしていた。 顔を上げれば、思いの外向こうに二人はいて。 「なーにいきなりおセンチになってんのよお前?」 笑って、おどけた風に悟浄が云うから。 「おセンチなんて、いまどき言います?」 僕もそう微笑みながら二人へと歩み寄った。 「ハロウィンは、万聖節の前夜祭なんです」 再び並んで歩きながら、さっきの続きを話しだせば。 「ってソレこそ何?」 悟浄からもっともなつっこみが。 「万聖節は全ての聖人殉教者を祝う日、です」 だからふと、あの人たちの事を考えてしまった。 ヘイゼルさんと、ガトさんと。 「あの人、お国ではどういう立場だったんでしょうね」 ヘイゼルさんは自分の神様をもう信じてはいませんでしたけど。 かつて信じ仕えていたのはきっと、僕にも馴染み深いあの神様。 「さぁてねぇ」 前を向いたまま悟浄は何とも取れない相槌を打って。 けれどぷかりと吐かれた煙は、先を促してくれている様で。 「生き返らせた人たちは皆、土に返ってしまったんですよね……」 あの宿屋の娘さんは、再び父を奪った僕たちを激しく詰った。 黄色い瞳の史華さん、他にもたくさんの、本当にたくさんの人が浮かんで。 「恨み罵る人はいても、祭り祝ってくれる人はいないのかななんて」 志そのものは、真っ直ぐな人だったのに。 なんてそう思うのは、僕が甘いんでしょうかね。 「じゃ、俺たちで祝ってやればいいじゃん」 と、また俯きかけていた耳に、明るく響く声は。 「悟空…」 見やった顔は一点の曇りもない笑顔で。 ああ本当に、この子は。 「お祭りつったらトーゼンごちそうだよな!」 食べ物の事も忘れないのがとてもらしくて。 「帰ったら三蔵に読経でもしてもらうか?」 そう云ってくれる悟浄も、本当に彼らしくて。 だから。 「ソレは違うと思いますよ?」 僕も笑ってやんわりとつっこむ。 それ以前に三蔵に撃たれるんじゃないかとも思いますけど。 ソレはソレで、いつもの光景ですね。 そして。 本当にソレを云った悟浄は、ハリセンで叩かれて。 おや、少し外れちゃいましたねぇ予想。 なんて見ていたら。 三蔵が。 じっとコチラを見つめたかと思えば、はあっと息を吐いて。 「あれだけの数生き返らしてんだ、一人ぐらいはいるだろう」 そういつもの調子で。 あぁもう。 誰も彼も。 「敵いませんねぇ」 取りあえずは。 僕たちだけで我慢していただければと思います。 心から、汝の魂に幸いあれ。 了 2004/10-2005/10/31 まるまる1年越しの品となってしまいました、ハロウィン追想。 せめてあの4人には忘れないでいて欲しいなぁと思い。 つっこみ所もありましょうが、えぇ。 でも真につっこむべきは以下の方なので。大事の前の小事。 八戒さんの物憂いも台無しな。 ガトヘイ分不足で、温く甘い話で余分なモノが一緒でも構わないという、 剛毅な方はよろしくば、蛇足なおまけの方もご覧下さいませ。 →おまけ →小話top |