[ 煙草 タバコ ]
「そないええモンやろか」 そう云うヘイゼルの前には、煙草のパックとライター。 赤と白のそれは、三蔵の愛用品と同じ物。 すぐ側にある灰皿には、殆ど燃えていない吸い殻があった。 自分の知る限り、今まで喫煙した事はない。 「なんやエグうて煙うてかなわんわ」 三蔵はんの気ぃが知れへん、と。 眉を寄せ、空咳をする。 「それを楽しむ物だからな」 仕方ない、と続ければ。 「アンタ吸うた事あるん?」 意外そうに返された。 「生きていた頃には」 もっとも今そこにある物とは随分違う味だろうが。 「……吸われんへんの、うちだけなん」 声のトーンがやや下がって、拗ねた様な響きが入る。 口に出して指摘すれば機嫌を損ねるので云わないが。 「ま、実際美味しゅうないし。しょうがあらしまへんな」 自分が何も云わなければ、ヘイゼルはこうしてひとりで納得をする。 「あぁもう、いがらっぽうてしゃーないわ」 喉元に手を当てまた咳をする。 そういえば。 「これを」 ポケットの中味を取り出し、その眼前へ差し出した。 「何や珍しぃ取り合わせやな」 色鮮やかな小さな包みと自分とを見比べ、 どないしたん?とヘイゼルが淡く笑う。 「さっきの子供が、礼だと」 出会い頭にぶつかりかけ、転びそうだった子供を、 ヘイゼルが咄嗟に支えてやったのは、つい先刻の事だった。 「あぁ」 軽く頷くと、ついとひとつを取り上げる。 赤い紙の中から現れたのは、やはり赤い飴玉だった。 「何やちょうどええモンもろたなぁ」 ふつと笑んで、舌先に乗せるよう飴を含む。 「甘……」 そういった物は滅多に口にしないから、余計にそう感じるのだろう。 過ぎる甘さに、ほんの少し眉根が寄る。 「せやけど煙草と比べたら、こっちのがよっぽどや」 片頬を膨らませ苦笑する様は、無垢な子供じみていて。 子供の時分には逆に見られなかった姿だった。 この子供を変えたのは、誰だろうか。 真に変える事が出来るのは? 了 〜2004/09/08 「人に歩み寄るようなコトしないだろ、アレ」 煙草吸い吸いネタを話したら、身内よりもっともなつっこみを↑ 自分でもそう思いますけどね。 でも、少しは優しい話を読みたい気分なので…… →小話top |