[ 煙草ノ始末 ]


「ヘイゼル、これは」
あれきりテーブルに放置された物を示し問うた。
「適当にほかしたって」
夜着を身に付け、後は眠るばかりとなったヘイゼルが、こちらも見ずに返す。
既に興味を失ったらしい。
気紛れや思いつきで事を始める反面、思い込むと止まらない質の子だ。
ともすれば三蔵の様なヘビースモカーになっていたのかと思うと……
心底良かったと思いながら、既に不要となったそれに手を伸ばせば。
「ちょい待ちや」
と、紙パックを取り上げた所で制止される。
動きを止めヘイゼルを見れば、きゅうと口の端が上がって。
「アンタも吸うてみぃひん?」
それはまさに、悪戯を思いついた子供の顔で。
別に、その行為自体は構わないが。
何をしたい?
「おいでなはれ」
ベッドに腰掛けたまま、指が招く。
伸べられた手にそれらを差し出せば、持たせたまま煙草を1本取り出して。
それをくわえると、上目遣いにこちらを見た。
意図を察して跪き、ライターを寄せる。
ぢっと鈍い音を立て、巻紙が燃えた。
「やっぱり好かんわ」
火が点ったのを確認して口から離すと、ヘイゼルはまた喉を鳴らした。
何もそんな思いをしてまで、というのは胸に納めておく。
「ほな」
フィルターをこちらに向け、口許に寄せられる。
無論否はない。
口を開き、それを受ける。
ヘイゼルに口吻けられたそれを。
自ずと目を閉じ、奥深くまで吸い込む。
「どないや?」
無邪気な瞳でヘイゼルは聞く。
甘さも苦さも感じられぬ身と知っていて。
それでも確かに身の内に吸い込んだ物はあって。
この子に吹きかけぬよう、上を向き煙を吐いた。
「どない?」
「何とも」
焦れる事なく再び問うたヘイゼルに、短く返し。
この子は結局何がしたいのだろうかと、煙草をくわえ直す。
「まぁそうどっしゃろなぁ」
と顔を寄せたてきたかと思えば、間近で婉然と微笑まれ。
同時に煙草を引き抜くと、床に落とし。
「ヘイゼル、」
咎める言葉を吐く前に、顎を捕らわれ。
有無を云わせず口が合わされた。
とろりと濡れた舌が口内に入り込む。
ゆっくりと、中を舐め上げられ。
「こないに煙草の味しよるのになぁ」
近付いたまま、繊細な指が俺の唇を拭う。
普段は手袋に包まれている、白く滑らかな指先が。
艶めく赤い舌は、ヘイゼル自身の唇を舐め。
たった今、自分の中にいたそれをつい凝視すれば。
くつりと。
ヘイゼルは三日月の様に笑って。
「ほな、おやすみやす」
すいと離れたかと思うとそのまま横になる。
「……おやすみ」
瞳を閉じたヘイゼルに、俺は毛布をかけた。
密やかなため息とともに俯けば。
床には、燃え尽きた煙草と小さな焦げ跡があり。
思わず、深く長いため息が出た。






2004/09〜10/03
概ね出来ていたモノに、リアルタイムアンケート反映。
え、まだまだ物足りない?
いやいやいやいや(笑逃)。



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