[幸福論]


夕暮れ時はイヤや。
ミンナ家へ帰って。
窓にはあったかい明かりで。
往来まで漂うスープの香りが。
イヤや。
全部、大嫌いや。


「…マズ」
「すまない」
やりたい云うから、試しにさせてみよったら。
最初の一匙、ちぃっと舐めただけでもう……。
「この体では味見が出来ないんでな」
味見がどうのってレベルちゃうわ、コレ。
生きてた頃からこの破壊力やろ、絶対。
「無理はしない方が」
返せ云う風に、ゴッツイ手ぇが出されるけど。
「マズイだけで食事に変わりはあらへん」
ほかしたりしたら材料が勿体ないやないの。
間違ぅても味わえるよなモンちゃうけどな。
スプーンは置いて覚悟を決めて、直接器に口を付ける。
「大丈夫、なのか」
…………正直。
たかがスープに泣かされそうやわ。
せやけど意地でもそうは云われへん。
無言でこの無愛想ヅラを見返したる。
ま、こんなんでも。
他で役立つんやし。
しゃーないやろ。
こんくらいガマンしたりますわ。
「まぁあんじょう精進しい」
気合いでカラにした皿を突っ返した。
一緒に、ちぃっとだけ笑ってやったのは。
ごちそうさまの代わりや。
あくまでもな。

2004/12/07*08/08/19修正
リロガン版の仔ヘイゼル。
超古いネタが先代携帯に眠っていたので。
リロガンのコにしては結構友好的。


[バニラ味]


「何かイイニオイがする」
て。
悟空はんが。
目ぇ瞑って鼻をひくひくさせて。
椅子に座るウチに近付いてきて。
「ひゃっ?!」
うなじに鼻先をつっこまれた。
「ナニすんのや!」
って怒鳴って振り返れば。
「バニラ味?」
なんて指をくわえて首傾げて。
何や腹立つゆーか、むしろ、かーいらしいやないの。
って。
いやいやいや、そうやない!
「『味』て誰が菓子や、しっつれーやな」
西の礼儀としてはツッコミ入れんと。
「でもヘイゼルから甘いニオイするじゃんか!」
あーまぁそうかも知らんけど。
「コレはソープの香りや」
味やなんて、そないけったいな。
「へーそんな旨そうなのあるんだ」
そないキラキラと目ぇ輝かせて。
あぁ美味しそやったら香りだけでもアリなんやねぇ。
その飽くなき食への執着は、ちぃっと尊敬してまうわー。
真似したないけどな。
「言うときますけど、食べたらあきまへんえ?」
うっかり噛み付かれても、おもろないし。
一応念押ししたったら。
「バッ! そんなの判ってるよ!」
顔を赤ぅして怒鳴るから。
コレだから子供はしゃーないなぁて、思うてしまう。
「したら代わりにアイス奢ったりまひょ」
立ち上がって、ぽんとその頭に手を乗せた。

2006/12/07-2007/04/20
漫画版。時系列はムシで。潔く!