[ 白い恋人 ]
「凄い雪だな」 訥々とガトが云う。 「せやね、って悠長に構えとる場合かい!」 びしっと手の甲でツッコミ入れたったけど。 ココは雪山。 外は猛吹雪。 手も足も出ぇへんよな有様で。 辛くも見付けた小屋に今はどうにか避難。 までは、良かったんやけど。 「こない何もないトコで立往生て……」 暖炉やら薪やら毛布やら、山小屋いうたらお約束の一切モンがない。 すっかり冷えたこの体、一体どないしろて? そら外よかマシやけど…… 「あぁも!」 全身冷え固まって手袋すらよう外されへん! 指は曲がらんし、布は濡れて張り付いとるし。 くわえて引っ張ったかて、よう滑らへん。 と。 「ガト、アンタ今笑うたやろ」 背後で空気が揺れる気配がしよったから、振り返れば。 「手伝おうか」 悪びれもせんと。 淡く笑みを残したまんま、そないな。 「……子供扱いすな」 おもろなくて睨んだれば。 「判っている」 唇の角度がまたちぃっと上がって。 ソレが子供扱いちゃうんかい。 まぁな。 今は実際助かるのやけど。 「ほな」 右手を伸べれば。 ガトが両の手で恭しげに受けて。 「何や、子供やのうておひいさんやったん」 ちぃと笑けてまう。 ソレを意識してか、ガトは丁寧に手袋を剥いでいき。 「あぁやっぱり指先の感覚がない」 かじかんで腫れて真っ赤っかや。 「左も出せ」 催促の手が伸べられて。 「おおきに」 今更拒む必要もナシ、素直に預ければ。 露わになった手ぇは、やっぱりおんなし風で。 「あーも、かなわんわー」 指先に息を吹きかければ。 「ってアンタ何しとんの」 ずいとガトの手が襟元にかけられていた。 「このままじゃ冷える一方だろう」 そら当然、服も濡れとるけど。 アンタ普段はそない世話焼きちゃうやろ。 何や、コレって。 ボタンを一つ一つ外されてくて。 これじゃまるで。 「アカン」 こんなん不意打ちもイイトコや! 「何がだ」 不思議そうに聞かんとき、阿呆! 相手は全くその気ナシで。 雪山で遭難ゆうたらやっぱアレなんか、なんて。 ウチ一人でそないなコト考えてたなんて。 悔しいったらないわ!! て、思う間に脱がされ尽くしとるし。 「しっかり包まっていろ」 仕上げに荷物から取り出した薄い毛布を掛けられる。 せやな。 人として、コレが正解やわ。 けど。 「どうした」 俯いて動かんウチに、アンタは訝しげに問うから。 「ガト」 あぁ本ッ当憎らしわぁ。 「アンタがやりつけんコトしよるから」 するりと、今掛けられたばかりの毛布を肩から落とし。 「なぁ?」 見上げれば、ほんの少しの呆れ顔。 実際自分でもどうか思うけど。 「きっちり責任取りや」 否を云わせる間を与えず、その冷たい体に触れた。 ま、雪山幻想も案外ワルないわ。 了 2005/12/09-06/01/16 雪吹雪くロッジに云々、てヤツです。 TMR 紅白リクエストベスト記念インスパイアってコトでココは一つ。 漫画版ヘイゼル様の喋り方が、脳内辞書から抜けており残念無念四苦八苦。 そのせいか中途半端に乙女。漫画版はも少しアダルトチームのつもりなのに。 2006/12/09追記 書いた頃、バタバタしててUPしそびれ。 ほぼ1年越しでのご提供です。 まぁこんなんもアリとおもっていただければー。 →小話top |